あなたは「介護福祉士だけ8万円もらえるなんてずるい」と思ったことはありませんか?結論、介護福祉士の8万円支給制度は存在しましたが、実際に満額を受け取れた人はほとんどいませんでした。この記事を読むことで処遇改善加算の真実や今後の給与アップの見通しがわかるようになりますよ。ぜひ最後まで読んでください。
Contents
1.介護福祉士8万円はずるい?処遇改善加算の真実

介護福祉士に月8万円支給の制度とは何だったのか
2019年10月から施行された「介護職員等特定処遇改善加算」は、勤続10年以上の介護福祉士に対して月額8万円相当の賃上げを行うという内容でした。
この制度は公費1000億円程度を投じて、介護人材の確保と定着を図ることを目的としていました。
しかし、制度の複雑さや事業所の判断により、実際に月8万円の賃上げを実現できた介護福祉士は極めて少なかったのが実情です。
事業所が加算を取得しない選択をしたり、他の職員への配分も可能だったりしたため、当初の目的通りには機能しませんでした。
なお、この制度は2024年6月に他の処遇改善加算と統合され、新たな「介護職員等処遇改善加算」として生まれ変わっています。
「ずるい」と言われた理由と現場の声
「介護福祉士だけに8万円が支給される」という情報が広まった当初、介護現場では大きな不満の声が上がりました。
「介護福祉士以外にも頑張っている職員はたくさんいる」「資格の有無だけで差をつけるのはおかしい」といった声が多く聞かれました。
実際には介護福祉士だけでなく、他の介護職員や他職種にも配分できる制度設計でしたが、「月8万円」という金額が一人歩きしたことで誤解を招いたのです。
また、同じ施設で同じように働いているのに、資格の有無で処遇に大きな差が出ることへの不公平感も大きかったようです。
こうした現場の声を受けて、事業所の判断で柔軟に配分できるルールに修正されていきました。
実際に8万円を受け取れた介護福祉士は少なかった
制度開始時には大きな話題となった月8万円の賃上げですが、実際に満額を受け取れた介護福祉士はごく少数でした。
厚生労働省の調査によると、特定処遇改善加算の取得率は約7割にとどまり、全事業所の3割は加算自体を取得していませんでした。
加算を取得した事業所でも、8万円全額を1人の介護福祉士に配分するケースは稀で、多くは事業所内で分散して配分されていました。
また、勤続10年以上の介護福祉士が在籍していない事業所も多く、対象者自体が少なかったという実態もあります。
結果として、月8万円という金額は「看板」に過ぎず、実際の給与アップは数千円から数万円程度だったという声が多く聞かれました。
2.特定処遇改善加算の仕組みと対象者

勤続10年以上の介護福祉士が基本対象
介護職員等特定処遇改善加算では、「経験・技能のある介護職員」として勤続10年以上の介護福祉士を基本対象としていました。
ただし、勤続10年の考え方は事業所の裁量で設定できるため、必ずしも同一事業所での10年である必要はありませんでした。
介護福祉士の資格保有は必須条件であり、無資格者や他の資格保有者は「経験・技能のある介護職員」の対象外でした。
対象者のうち少なくとも1人以上は、月額8万円の改善または年収440万円以上の賃金水準を達成することが求められていました。
しかし、介護福祉士の平均勤続年数は約6年とされており、勤続10年以上の条件を満たす人材が少なかったことも制度の課題でした。
その他の介護職員も配分を受けられる制度設計
特定処遇改善加算は介護福祉士だけの制度ではなく、その他の介護職員にも配分できる仕組みになっていました。
勤続10年未満の介護職員や、介護職員初任者研修・実務者研修の資格保有者も配分の対象となっていました。
さらに、介護職員以外の職種(看護師、理学療法士、栄養士など)にも一定の配分が認められていました。
配分ルールとしては、「経験・技能のある介護職員」の平均賃上げ率が「その他の介護職員」を上回る必要がありましたが、具体的な配分方法は事業所に委ねられていました。
この柔軟性が、結果的に「介護福祉士だけに8万円」という当初の目的を達成できなかった一因となりました。
事業所が加算を取得しなかった理由
特定処遇改善加算の取得率が約7割にとどまった背景には、制度の複雑さと事務負担の大きさがありました。
加算を取得するためには、キャリアパス要件や職場環境等要件など、複数の要件を満たす必要があり、書類作成や計画策定の負担が大きかったのです。
また、小規模事業所では対象となる勤続10年以上の介護福祉士が在籍していないケースも多くありました。
加算額の配分ルールも複雑で、グループごとの配分比率の計算や職員への説明に多くの時間を要しました。
経営状況が厳しい事業所では、加算を取得しても全額を職員に配分する余裕がない場合もあり、取得を見送るケースもありました。
他職種への配分ルールと実態
特定処遇改善加算では、介護職員以外の職種にも配分することが認められていましたが、一定のルールが設けられていました。
具体的には、「その他の職種」への配分は、「経験・技能のある介護職員」と「その他の介護職員」への配分の合計の2分の1を上回らないことが条件でした。
実際には、看護師、リハビリ職、栄養士、事務職など幅広い職種に配分されていた事業所も多く存在しました。
これは介護現場がチームで運営されており、介護職員だけを優遇することが現場の士気に悪影響を与える可能性があったためです。
結果として、介護福祉士への重点配分という当初の目的は薄れ、事業所全体での処遇改善という性格が強くなっていきました。
3.介護福祉士8万円が実現しなかった理由

制度が複雑で事業所の取得率が7割に留まった
介護職員等特定処遇改善加算の最大の課題は、制度の複雑さによる取得率の低さでした。
厚生労働省の調査によると、処遇改善加算(旧制度)の取得率が9割を超えていたのに対し、特定処遇改善加算は約7割にとどまりました。
キャリアパス要件、職場環境等要件、配分ルールなど、満たすべき条件が多岐にわたり、小規模事業所には大きな負担となりました。
さらに、計画書や実績報告書の作成、職員への説明と同意取得など、事務作業が煩雑でした。
人員に余裕のない介護現場では、これらの事務作業に時間を割くこと自体が困難だったのです。
事業所の判断で他の職員に分配されたケース
加算を取得した事業所でも、全額を勤続10年以上の介護福祉士に配分するケースは少なかったのが実情です。
多くの事業所では、職場全体のモチベーションを考慮し、幅広い職員に配分する判断をしました。
「一部の職員だけが恩恵を受ける状況は職場の雰囲気を悪化させる」という管理者の声も多く聞かれました。
また、経験年数の浅い職員や他職種からも「不公平だ」という声が上がり、労務管理上の問題を避けるために分散配分を選択した事業所もありました。
結果として、月8万円という金額が実現したのは、ごく限られた事業所の限られた職員のみとなりました。
勤続10年以上の介護福祉士が少なかった現実
介護福祉士の平均勤続年数は約6年とされており、勤続10年以上という条件を満たす人材が少なかったことも大きな問題でした。
介護業界は離職率が高く、長期間同じ事業所で働き続ける職員が少ないという構造的な課題があります。
特に小規模事業所や新設の事業所では、勤続10年以上の職員自体が在籍していないケースも珍しくありませんでした。
また、介護福祉士の資格を持っていても、出産・育児などで一時的に現場を離れる職員も多く、連続した勤続年数の計算が難しいという実態もありました。
このように、制度の対象者自体が想定よりも少なかったことが、月8万円支給の実現を妨げた大きな要因となりました。
経営状況により満額支給が困難だった事業所
介護報酬は公定価格で決められており、事業所の収入には限界があるという構造的な問題もありました。
加算を取得しても、その全額を職員の賃金改善に充てることができない事業所も存在しました。
特に経営が厳しい小規模事業所では、運営費の確保を優先せざるを得ず、満額の配分は困難でした。
また、加算額は事業所の規模や利用者数によって異なるため、小規模事業所ほど配分できる金額が少なくなる傾向がありました。
「加算を取得しても、職員一人当たりの配分額は数千円程度」という声も多く、月8万円という金額との乖離が大きかったのです。
4.現在の処遇改善制度と今後の給与アップ

2024年に一本化された介護職員等処遇改善加算
2024年6月から、従来の3つの処遇改善加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)が「介護職員等処遇改善加算」として一本化されました。
新制度はⅠ~Ⅳの4区分に整理され、事業所の事務負担軽減と柔軟な運用が可能になりました。
職種間の配分ルールが撤廃され、介護職員を基本としつつも事業所内で柔軟に配分できるようになっています。
加算率は全体的に引き上げられ、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを目指す設計となっています。
経過措置として2024年度末までは旧加算の取得状況に応じた加算率も選択でき、スムーズな移行が図られています。
2025年以降の賃上げ見通しとベースアップ
政府は介護職の処遇改善を継続的に推進しており、2025年以降も段階的な賃上げが見込まれています。
2024年度の介護報酬改定では改定率1.59%のうち0.98%が介護職員の処遇改善に充てられる計算です。
2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを目標としており、月給30万円の職員であれば7,500円から6,000円程度の賃上げが期待できます。
また、2024年2月からは月6,000円相当の賃上げも実施されており、着実に給与水準は上昇傾向にあります。
ただし、実際の賃上げ額は事業所の申請状況や経営方針によって差が出る可能性があるため、勤務先の動向を注視する必要があります。
介護福祉士資格取得で収入アップを目指す方法
最も確実な収入アップの方法は、介護福祉士の資格を取得することです。
厚生労働省のデータによると、無資格者の平均月給は約26.8万円ですが、介護福祉士では約33.1万円と、月6万円以上の差があります。
年収に換算すると約72万円、生涯年収では2,000万円以上の差が生まれる計算になります。
資格取得後は、サービス提供責任者や生活相談員などの役職に就く道も開けるため、さらなる収入アップが期待できます。
実務経験3年以上と実務者研修の受講で受験資格が得られるため、働きながら計画的に取得を目指すことが可能です。
処遇改善以外の収入を増やす具体的な選択肢
処遇改善加算以外にも、収入を増やす方法は複数あります。
夜勤回数を増やすことで、夜勤手当(1回あたり5,000円~10,000円程度)を多く受け取ることができます。
介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得することで、介護福祉士よりも月3万円~4万円程度高い給与が期待できます。
給与水準の高い施設形態に転職するのも有効で、特別養護老人ホームは通所介護施設よりも平均月給が約6.7万円高い傾向があります。
また、副業を活用して収入源を増やす方法も注目されており、単発の介護派遣や介護関連のライター業などの選択肢があります。
まとめ
- 介護福祉士の月8万円支給制度(特定処遇改善加算)は2019年に開始されたが、実際に満額を受け取れた人はごく少数だった
- 制度の複雑さから取得率は約7割にとどまり、加算を取得しても他職員への分配が行われたケースが多かった
- 勤続10年以上の介護福祉士が少なく、対象者自体が想定より少なかったことも月8万円実現を妨げた
- 2024年6月から処遇改善加算が一本化され、より柔軟で事務負担の少ない制度に改善された
- 2024年度2.5%、2025年度2.0%のベースアップが目標とされ、今後も段階的な給与改善が見込まれる
- 介護福祉士資格の取得により無資格者と比べて月6万円以上、生涯年収で2,000万円以上の差が生まれる
- 夜勤手当の増加、ケアマネジャー資格の取得、給与水準の高い施設への転職などで収入アップが可能
- 処遇改善加算の効果は事業所の判断に左右されるため、転職時は加算取得状況の確認が重要
介護福祉士の処遇改善は着実に進んでいます。資格取得やキャリアアップを計画的に進めることで、より良い待遇を実現できる可能性が高まっています。あなたも自分に合った方法で、収入アップを目指してみてはいかがでしょうか。
関連サイト
厚生労働省 介護職員の処遇改善について
