あなたは「賞与は誰が決めているのだろう」と疑問に思ったことはありませんか?結論、賞与の最終決定権は経営者や取締役会が持っていますが、実際には複数の関係者が関与する複雑なプロセスです。この記事を読むことで賞与の決定者や金額の決まり方、法律上の扱いまで理解できるようになりますよ。ぜひ最後まで読んでください。
Contents
1. 賞与を誰が決めるのか – 決定権者の基本


最終決定権は経営者・取締役会が持つ
賞与の最終的な決定権は、会社の経営者や取締役会が持っています。
これは企業の経営判断として、会社全体の業績や財務状況を踏まえて賞与の総額を決定する必要があるためです。
取締役会では、当期の利益や今後の事業計画、内部留保の必要性などを総合的に判断し、賞与として支給できる総額の枠を決定します。
株式会社では特に、株主への配当とのバランスも考慮されます。
経営者は従業員への還元と会社の財務健全性の両立を図りながら、賞与支給の可否と規模を最終決定する重要な役割を担っています。
人事部門が果たす役割と権限
人事部門は賞与決定プロセスにおいて調整役・実務担当としての重要な役割を果たします。
具体的には、各部署からの評価情報を集約し、全社的な公平性を保ちながら個々の賞与額を算出する業務を担当します。
人事部門は就業規則や賞与規定に基づいて、評価基準の運用や計算ロジックの適用を行います。
また、賞与総額の配分案を作成し、経営層に提案する役割も担います。
ただし、人事部門が持つのは基本的に「提案権」であり、最終的な決定権は経営層にあることが一般的です。
人事部門は公平性・透明性を確保しながら、制度を適切に運用する専門部署として機能しています。
直属の上司や管理職の評価への関与
直属の上司や管理職は、部下の人事評価を通じて賞与決定に間接的に関与します。
具体的には、評価期間中の業務遂行状況、目標達成度、勤務態度などを評価シートに記入し、人事部門に提出します。
この評価内容が賞与額の算定基礎となるため、上司の評価は極めて重要な意味を持ちます。
多くの企業では、直属の上司による一次評価の後、部門長による二次評価、さらに人事部門による調整というプロセスを経ます。
ただし、上司が直接賞与額を決定する権限を持つことは少なく、あくまで評価者としての役割です。
評価の公平性を保つため、複数の評価者による確認や、人事部門によるクロスチェックが行われることが一般的です。
中小企業と大企業での決定者の違い
企業規模によって賞与の決定プロセスには大きな違いがあります。
中小企業では、社長や代表取締役が直接的に個々の従業員の賞与額まで決定することも珍しくありません。
組織がフラットで従業員数も限られているため、経営者が各従業員の働きぶりを把握しやすく、迅速な意思決定が可能です。
一方、大企業では制度化された評価システムと複数階層の承認プロセスが存在します。
人事部門が中心となって評価を集約し、部門長会議や経営会議での承認を経て決定されます。
| 企業規模 | 決定者 | プロセスの特徴 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 社長・代表取締役が中心 | 経営者の裁量が大きい、柔軟で迅速 |
| 大企業 | 取締役会・経営会議 | 制度化された評価、複数段階の承認 |
大企業ほど透明性と公平性を重視した仕組みが整備されている傾向にあります。
2. 賞与の金額が決まる仕組みと基準


会社の業績が賞与額に与える影響
賞与額を決定する最も大きな要素は、会社全体の業績です。
企業の売上高、営業利益、経常利益などの財務指標が好調であれば、賞与の原資となる総額も増加します。
逆に業績が悪化した場合には、賞与が減額されたり、支給自体が見送られることもあります。
多くの企業では、賞与総額を「営業利益の○%」といった形で設定するルールを持っています。
業績連動型の賞与制度を採用している企業では、この影響がより直接的に現れます。
また、自社の業績だけでなく、業界全体の動向や競合他社の賞与水準も参考にされることがあります。
会社業績と賞与の関係性を理解しておくことは、自身の賞与額を予測する上でも重要です。
個人の人事評価が反映される方法
会社全体の賞与総額が決まった後は、個人の人事評価に基づいて各従業員への配分が行われます。
一般的な評価項目には以下のようなものがあります:
- 目標達成度(設定した業務目標をどの程度達成したか)
- 業務遂行能力(担当業務の質や効率性)
- 勤務態度(協調性、積極性、責任感など)
- 改善・貢献度(業務改善提案や特別な貢献)
これらの評価項目ごとに点数やランクが付けられ、総合評価が算出されます。
評価結果は通常、S・A・B・C・Dなどのランク分けや、5段階・7段階などの数値評価で表されます。
この評価ランクに応じて、基準賞与額に対する支給率(例:S評価は120%、A評価は110%など)が決まります。
透明性の高い企業では、評価基準や評価結果が本人にフィードバックされる仕組みになっています。
評価期間と査定のタイミング
賞与の査定には明確な評価期間が設定されています。
一般的な夏季賞与(6月〜7月支給)の評価期間は、前年10月から当年3月までの6ヶ月間です。
冬季賞与(12月支給)の評価期間は、当年4月から9月までの6ヶ月間となることが多いです。
評価期間終了後、上司による評価作業、人事部門での調整、経営層の承認という流れで進みます。
査定のタイミングは通常、賞与支給日の1〜2ヶ月前に行われます。
例えば6月支給の夏季賞与なら、4月〜5月に評価と査定が実施されるのが一般的です。
企業によっては、期初に設定した目標に対する中間レビューを実施し、期末評価の精度を高める取り組みも行われています。
基本給・勤続年数との関係性
賞与額の算出基礎として、多くの企業では基本給が使用されます。
典型的な計算式は「基本給 × 支給月数 × 評価係数」となります。
例えば、基本給30万円、支給月数2ヶ月、評価係数1.1(A評価)の場合:
30万円 × 2ヶ月 × 1.1 = 66万円となります。
基本給が賞与の基礎となるため、基本給が高い人ほど賞与額も高くなる傾向があります。
勤続年数については、企業によって扱いが異なります。
年功序列型の企業では勤続年数が評価に加味されることもありますが、成果主義の企業では勤続年数よりも実績を重視します。
一部の企業では、勤続年数に応じた「勤続加算」を設けているケースもあります。
賞与の計算式と支給率の決め方
賞与の具体的な計算方法は企業によって様々ですが、基本的な構造は共通しています。
最も一般的な計算式:
賞与額 = 基本給 × 会社業績係数 × 個人評価係数 × 支給月数
会社業績係数は、全社的な業績目標の達成度に応じて0.8〜1.2などの範囲で設定されます。
個人評価係数は、前述の人事評価ランクに応じて0.7〜1.3などの範囲で決まります。
支給月数は、就業規則で「基準2ヶ月分」などと定められていることが多いです。
一部の企業では「基本給連動型」ではなく「ポイント制」を採用しています。
ポイント制では、職位や等級ごとに基本ポイントが設定され、評価に応じてポイントが加算・減算されます。
- 一般社員:100ポイント
- 主任:120ポイント
- 係長:150ポイント
最終的に1ポイントあたりの単価(例:5,000円)を掛けて賞与額が決定されます。
3. 賞与決定に関する法律と就業規則


賞与支給に法的義務はあるのか
労働基準法上、賞与の支給は法的義務ではありません。
賃金としての最低限の保障は「賃金」(基本給)に対してのみ適用され、賞与は法律上の必須項目ではないのです。
つまり、企業は賞与を支給するかどうか、どの程度支給するかを自由に決定できる建前になっています。
ただし、就業規則や労働契約で賞与支給を明記している場合は話が別です。
就業規則に「年2回賞与を支給する」と記載されている場合、それは労働契約の一部となり、一方的な不支給は認められません。
また、賞与支給の慣行が確立している企業では、合理的な理由なく突然支給を取りやめることは労働契約違反となる可能性があります。
業績悪化などの正当な理由がある場合でも、従業員への説明と理解を得るプロセスが重要です。
就業規則や賞与規定での定め方
企業は就業規則の中で賞与に関する規定を設けることが一般的です。
就業規則に記載される主な内容:
- 賞与の支給時期(例:夏季は7月、冬季は12月)
- 支給対象者(例:支給日に在籍している正社員)
- 算定方法の概要(例:基本給を基礎として会社業績と個人評価により決定)
- 支給の条件や制限(例:試用期間中は支給対象外など)
より詳細な内容は「賞与規程」として別途定められることもあります。
賞与規程には、評価基準、計算式、支給率の範囲、特別な状況での取り扱いなどが明記されます。
重要なのは、就業規則や賞与規程に書かれている内容は、企業が守るべき約束であるということです。
これらの規定に反する恣意的な減額や不支給は、労働契約違反として争われる可能性があります。
自社の賞与規定を確認する方法
自分の会社の賞与がどのように決まるのか知ることは、働く上で重要です。
就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成・届出が義務付けられており、従業員が閲覧できるようにしなければなりません。
確認方法は以下の通りです:
- 人事部門や総務部門に閲覧を申し出る
- 社内イントラネットで公開されている場合はそこから確認
- 入社時に配布された従業員ハンドブックを参照
- 労働組合がある場合は労働組合に問い合わせる
就業規則の閲覧は労働者の権利であり、遠慮する必要はありません。
賞与に関する規定を理解しておけば、自分の賞与がどのような基準で決まるのか、疑問に思った際にも確認できます。
もし規定が明確でない場合や、実際の運用が規定と異なる場合は、人事部門に質問することも検討しましょう。
労働組合がある場合の協議プロセス
労働組合がある企業では、賞与決定に関して労使協議が行われることがあります。
労働組合は組合員の労働条件改善を目的として、会社側と賞与に関する交渉を行います。
協議の主な内容:
- 賞与の支給総額や支給月数
- 最低保障額の設定
- 評価制度の公平性
- 賞与の配分方法
春闘(春季労使交渉)では、賞与も重要な交渉テーマの一つです。
労働組合と会社側が合意に達すると、労働協約として正式に締結されます。
労働協約に定められた内容は、就業規則よりも優先して適用されるため、組合員にとっては重要な保護となります。
組合がある企業で働く場合、組合の活動や交渉結果を把握しておくことで、自身の賞与がどのように決まるのかをより深く理解できます。
非組合員であっても、労働協約で定められた賞与の基本的な枠組みは全従業員に適用されることが一般的です。
4. ケース別:賞与の決定者と決め方の実例


上場企業における決定プロセス
上場企業では、株主や投資家への説明責任があるため、賞与決定プロセスが高度に制度化されています。
典型的なプロセスは以下の通りです。
まず、期初に会社全体の業績目標と連動した賞与の基本方針が取締役会で決定されます。
期末に業績が確定すると、人事部門が全社的な賞与原資の総額を試算し、経営会議に提案します。
各部門では、部門業績と個人評価に基づいて配分案が作成されます。
人事部門は各部門からの配分案を集約し、全社的な公平性をチェックした上で調整を行います。
最終的な賞与総額と配分方針は、取締役会または経営会議で承認されます。
上場企業の特徴は、業績連動性が明確で、評価基準が文書化されている点です。
また、IR(投資家向け広報)として、賞与を含む人件費の方針が開示されることもあります。
コンプライアンスの観点から、評価の公平性や透明性が厳しく求められるのも上場企業の特徴です。
中小企業・ベンチャー企業の場合
中小企業やベンチャー企業では、経営者の裁量が大きく、柔軟な運用がなされています。
従業員数が少ない企業では、社長が各従業員の働きぶりを直接把握しているため、評価プロセスがシンプルです。
決定の流れ:
- 社長が会社の財務状況を確認
- 各従業員の貢献度を社長自身が評価
- 賞与額を直接決定
中小企業の利点は、スピーディーな意思決定と個別事情への柔軟な対応です。
例えば、特に大きな成果を上げた従業員に対して、通常の評価制度とは別に特別賞与を出すといった対応も可能です。
一方で、評価基準が明文化されていないことも多く、従業員からは「何を基準に決まっているのか分からない」という不満が出ることもあります。
ベンチャー企業では、ストックオプションなど株式を活用したインセンティブを賞与と組み合わせるケースも増えています。
成長段階にある企業では、現金賞与よりも将来の株式価値に期待を寄せる報酬設計が行われることもあります。
公務員の賞与(期末手当・勤勉手当)の決まり方
公務員の賞与は「期末手当」と「勤勉手当」という名称で、民間企業とは異なる仕組みで決定されます。
国家公務員の場合、人事院が民間企業の賞与実態を調査し、それに基づいて支給月数を勧告します。
この勧告を受けて、国会で承認されることで支給額が正式に決定されます。
地方公務員も基本的には国家公務員に準じた支給月数となりますが、各自治体の人事委員会が独自に検討することもあります。
期末手当は在職期間に応じた基本的な賞与、勤勉手当は勤務成績に基づく賞与です。
計算方法:
- 期末手当 = 給料月額 × 支給月数 × 在職期間別割合
- 勤勉手当 = 給料月額 × 支給月数 × 成績率
成績率は、勤務評価に応じて標準を1.0として、優秀であれば1.2、標準以下であれば0.8などと設定されます。
公務員の賞与の特徴は、法律や条例で詳細に規定されており、透明性が極めて高い点です。
民間企業のように業績変動の影響を直接受けることは少ないですが、財政状況が厳しい自治体では減額されるケースもあります。
外資系企業の賞与決定の特徴
外資系企業では、グローバル本社の方針と日本法人の実情を組み合わせた独自の賞与制度が採用されています。
多くの外資系企業で見られる特徴:
- 年俸制を採用しており、賞与も年俸の一部として位置づけられる
- MBO(目標管理制度)に基づく厳格な評価
- 職務給(ジョブ型雇用)のため、職務レベルで賞与基準が明確
- 本社の業績と日本法人の業績の両方が反映される
外資系企業の賞与は「ボーナス」として、より業績連動性が強い傾向があります。
個人目標の達成度が重視され、未達成の場合は賞与が大幅に減額されることも珍しくありません。
一方で、目標を大きく超える成果を出した場合、標準額の2倍以上の賞与が支給されることもあります。
外資系金融機関などでは、「ディスクレショナリー・ボーナス」という形で、部門の収益や個人の貢献度に応じた変動賞与が主流です。
決定権者は、日本法人の社長やマネジメントチームですが、本社の承認が必要なケースも多いです。
特に高額賞与については、本社のコンプライアンス部門や報酬委員会の審査を受けることがあります。
外資系企業で働く場合、グローバル基準の評価制度を理解し、明確な成果を示すことが賞与獲得の鍵となります。
まとめ
この記事で解説した賞与の決定に関する重要なポイントをまとめます:
- 賞与の最終決定権は経営者・取締役会が持ち、人事部門が実務を担当する
- 直属の上司は評価者として関与するが、直接決定権を持つことは少ない
- 企業規模によって決定プロセスが異なり、中小企業ほど経営者の裁量が大きい
- 会社の業績が賞与総額を左右し、個人評価が配分を決定する重要な要素
- 基本給を基礎とした計算式が一般的で、評価係数が掛け合わされる
- 賞与支給は法的義務ではないが、就業規則で定めた場合は契約の一部となる
- 上場企業では制度化された透明性の高いプロセスが採用されている
- 公務員は法律・条例で詳細に規定され、民間準拠の支給月数となる
- 外資系企業は成果主義が強く、業績連動性が高い賞与制度が特徴
- 自社の賞与規定を確認することで、決定基準を理解できる
賞与がどのように決まるのかを理解することで、自身のキャリアや働き方を見直すきっかけになるはずです。不明な点があれば人事部門に確認し、透明性の高い評価を受けられるよう努めましょう。あなたの努力が適正に評価され、納得のいく賞与を受け取れることを願っています。
関連サイト
厚生労働省 – 労働基準行政について
