あなたは「赤字だけど賞与は支給すべきなのか」と悩んでいませんか?結論、賞与は赤字でも法的義務がある場合とない場合があります。この記事を読むことで赤字時の賞与支給の判断基準や具体的な対応方法がわかるようになりますよ。ぜひ最後まで読んでください。

1.賞与は赤字でも支給する義務があるのか?

1.賞与は赤字でも支給する義務があるのか?

賞与の法的な性質と支給義務の有無

賞与は労働基準法上「賃金」に該当しますが、支給義務は一律ではありません。

賞与の支給義務は、就業規則や雇用契約書にどのように定められているかによって大きく異なります。

労働基準法では賃金の支払いは義務付けられていますが、賞与については「臨時に支払われる賃金」として扱われ、毎月の給与とは区別されています。

そのため、赤字であることを理由に賞与を不支給とすることは、条件次第で法的に認められる場合があります。

ただし、就業規則に明確な支給条件が記載されている場合は、その内容に従う必要があります。

赤字だからといって一方的に賞与を削減・不支給にすると、労働契約違反や不利益変更として法的トラブルに発展するリスクがあるため注意が必要です。

就業規則や雇用契約に記載がある場合の扱い

就業規則や雇用契約書に賞与の支給に関する明確な規定がある場合、企業はその内容に拘束されます。

例えば「年2回、基本給の○ヶ月分を支給する」と明記されている場合、原則として企業はその通りに支給する義務があります。

一方で「業績に応じて支給する」「会社の業績により支給しないことがある」といった文言がある場合は、赤字を理由とした不支給や減額が認められやすくなります。

ただし、このような規定がある場合でも、過去に赤字時でも継続的に支給してきた実績がある場合は、「労働慣行」として支給義務が認められる可能性があります。

就業規則の内容と実際の運用実態の両方を確認し、法的リスクを慎重に判断することが重要です。

従業員との信頼関係を損なわないためにも、規定の内容は明確にしておき、変更する際は適切な手続きを踏む必要があります。

業績連動型賞与と固定賞与の違い

賞与には業績連動型賞与と固定賞与の2つのタイプがあり、赤字時の対応も異なります。

固定賞与は、毎年一定額または基本給の○ヶ月分といった形で支給額が決まっているもので、業績に関わらず支給される性質が強いです。

このタイプの賞与は労働契約の一部とみなされやすく、赤字を理由に一方的に削減することは困難です。

一方、業績連動型賞与は、会社や個人の業績に応じて支給額が変動する仕組みで、赤字時には減額や不支給が認められやすい特徴があります。

項目 固定賞与 業績連動型賞与
支給額の決定方法 基本給の○ヶ月分など固定 業績評価に基づき変動
赤字時の削減 困難(労働契約違反のリスク) 比較的容易
従業員の期待度 高い 業績次第と理解
導入の難易度 低い 評価制度の整備が必要

近年は、経営環境の変化に柔軟に対応できる業績連動型賞与を導入する企業が増えています。

赤字を理由に賞与を不支給にできるケース

赤字を理由に賞与を不支給にできるのは、主に以下のようなケースです。

  • 就業規則に「業績により支給しない場合がある」と明記されている
  • 雇用契約書に業績連動である旨が記載されている
  • 過去に赤字時に不支給とした実績があり、従業員もそれを了解している
  • 会社の存続が危ぶまれるほどの深刻な経営状況である
  • 従業員や労働組合と事前に協議し、合意を得ている

ただし、これらの条件を満たしていても、一方的な通告ではトラブルの原因となります。

経営状況を丁寧に説明し、従業員の理解と納得を得るプロセスが不可欠です。

また、特定の従業員だけを不支給とするなど、不公平な扱いは避けなければなりません。

赤字を理由とした不支給が認められるかどうかは、個別の状況によって判断が分かれるため、労務の専門家に相談することをおすすめします。

2.赤字時の賞与支給に関する判断基準

2.赤字時の賞与支給に関する判断基準

企業の財務状況から見た支給可否の判断ポイント

赤字時の賞与支給を判断する際は、単年度の損益だけでなく、総合的な財務状況を見る必要があります。

まず確認すべきは、キャッシュフローの状態です。

会計上は赤字でも、手元資金が潤沢であれば賞与支給は可能ですし、逆に黒字でも資金繰りが厳しければ支給は困難です。

自己資本比率や流動比率などの財務指標も重要な判断材料となります。

一時的な赤字なのか、構造的な問題を抱えているのかによっても対応は変わります。

例えば、大型投資による一時的な赤字であれば、将来の収益改善が見込めるため賞与支給を継続する判断もあり得ます。

また、賞与を支給することで従業員のモチベーションを維持し、業績回復につながる可能性も考慮すべきです。

財務状況の客観的な分析と、中長期的な経営戦略を踏まえた総合的な判断が求められます。

従業員のモチベーションと離職リスクの考慮

赤字でも賞与を支給するかどうかは、従業員への影響を十分に考慮する必要があります。

賞与は従業員にとって生活設計の重要な要素であり、不支給や大幅削減は生活に直接的な影響を与えます。

特に、優秀な人材ほど転職市場での選択肢が多く、賞与カットをきっかけに離職してしまうリスクがあります。

キーパーソンの流出は、業績回復をさらに困難にする悪循環を生む可能性があります。

従業員のモチベーション低下は、生産性の低下や顧客サービスの質の低下にもつながります。

一方で、経営が厳しい中で無理に賞与を支給すれば、さらなる財務悪化を招き、最悪の場合は給与の遅配や倒産といった事態にもなりかねません。

短期的なモチベーション維持と、長期的な雇用の安定のバランスを取ることが重要です。

場合によっては、賞与額を減額しても継続支給する、あるいは業績回復後に一部を還元するといった折衷案も検討すべきでしょう。

業界水準や競合他社の動向との比較

自社の判断だけでなく、業界全体の動向や競合他社の対応も参考にすることが重要です。

同業他社が赤字でも賞与を支給している中で自社だけが不支給とすれば、人材流出のリスクが高まります。

逆に、業界全体が厳しい状況で多くの企業が賞与を削減している場合は、従業員の理解も得やすくなります。

業界団体の調査データや、求人情報などから競合の動向を把握することができます。

ただし、他社の対応に盲目的に従うのではなく、自社の状況に合わせた判断が必要です。

企業規模、財務体質、事業の将来性などは各社で異なるため、自社にとって最適な選択を主体的に行うべきです。

また、業界水準を参考にしながらも、自社の独自性や強みを活かした報酬制度を構築することも、長期的な人材確保には有効です。

市場環境を把握しつつ、自社の経営方針に基づいた戦略的な判断を行いましょう。

将来の業績回復見込みと資金繰りのバランス

赤字時の賞与支給は、将来の見通しと現在の資金状況のバランスで判断します。

短期的には赤字でも、受注残が豊富で業績回復が確実視される場合は、賞与を支給して人材を繋ぎ止める選択肢もあります。

一方、業績回復の見通しが立たない中で無理に賞与を支給すれば、数ヶ月後に給与の支払いすら困難になる恐れがあります。

資金繰り表を作成し、向こう6ヶ月から1年の資金の流れを予測することが不可欠です。

賞与を支給した場合としない場合のシミュレーションを行い、どちらが企業の存続と従業員の雇用維持にとって最善かを検討します。

金融機関からの借入可能性や、資産の流動化など、資金調達の選択肢も同時に検討しましょう。

また、賞与の支給時期を遅らせる、分割払いにするなど、支払い方法を工夫することで資金繰りへの影響を軽減できる場合もあります。

目先の対応だけでなく、中長期的な経営の持続可能性を最優先に考えた判断が求められます。

3.赤字でも賞与を支給する場合の対応方法

3.赤字でも賞与を支給する場合の対応方法

支給額の減額幅を決定する際の考え方

赤字時に賞与を支給する場合、適切な減額幅の設定が重要です。

まず、企業が支出可能な総額を算出し、それを従業員数で配分する方法が基本となります。

一律カットとするか、業績や職責に応じて差をつけるかも検討ポイントです。

過去の支給実績と比較して、何割減なら従業員の理解が得られるかを慎重に判断します。

一般的には、10〜30%程度の減額であれば、経営状況の説明により理解を得やすい傾向があります。

50%以上の大幅削減となると、実質的に不支給に近い印象を与え、モチベーション低下のリスクが高まります。

また、削減は一時的なものか、継続的なものかを明確にすることも大切です。

「今回限り」なのか「当面の間」なのかで、従業員の受け止め方は大きく変わります。

業績回復時には支給水準を戻す、あるいは減額分の一部を還元するといった方針も示すことで、将来への期待を持たせることができます。

部門別・職種別で支給額に差をつける方法

赤字の中でも貢献度の高い部門や職種には手厚く報いることで、メリハリをつける方法もあります。

例えば、売上や利益に直接貢献している営業部門や、将来の成長の鍵を握る開発部門には通常の支給を行い、管理部門は減額するといった判断です。

この方法は、業績への貢献度を明確に評価でき、頑張った従業員へ報いることができるメリットがあります。

ただし、部門間の不公平感を生まないよう、評価基準の透明性が不可欠です。

評価基準が不明確だと、不満や対立を生み、組織の一体感を損なう恐れがあります。

また、管理部門やバックオフィスの仕事も企業運営には不可欠であり、過度な差別は避けるべきです。

職種や部門の特性を考慮しながら、全体として納得感のある配分を心がけましょう。

役職者は率先して大きく削減を受け入れるなど、経営層が姿勢を示すことも重要です。

差をつける場合は、事前に評価基準を公開し、結果についても丁寧に説明することが信頼関係の維持につながります。

従業員への丁寧な説明と納得感の醸成

賞与の削減や不支給を実施する際は、従業員への説明プロセスが成功の鍵を握ります。

まず、経営陣が直接、経営状況を包み隠さず説明することが重要です。

具体的な数字を示し、なぜこのような判断に至ったのかを論理的に伝えます。

従業員が納得するためには、「やむを得ない」と理解できる根拠の提示が不可欠です。

全体説明会の開催に加えて、部門ごとの説明会や個別面談も有効です。

一方的な通告ではなく、従業員の質問や意見を聞く機会を設けることで、双方向のコミュニケーションを図りましょう。

また、経営陣自身も報酬削減などの痛みを分かち合う姿勢を示すことが、説得力を高めます。

今後の業績回復に向けた具体的な計画と、従業員に期待する役割も併せて伝えることで、前向きな気持ちを引き出すことができます。

説明の場では、感情的な批判や不満も出るかもしれませんが、真摯に受け止める姿勢が信頼関係の維持につながります。

代替的な報酬制度の検討例

金銭的な賞与が難しい場合、代替的な報酬制度を検討することも一つの方法です。

例えば、以下のような制度が考えられます。

  • ストックオプション制度: 将来、業績が回復した際に利益を享受できる権利を付与
  • 福利厚生の充実: 社員食堂の設置、健康診断の拡充、育児支援など
  • 柔軟な働き方の導入: リモートワークの拡大、フレックスタイム制の導入
  • スキルアップ支援: 研修費用の補助、資格取得支援の拡充
  • 休暇制度の充実: 特別休暇の付与、有給休暇の取得促進

これらは金銭的な負担が比較的少なく、従業員の満足度向上に寄与します。

ただし、代替制度はあくまで補完的なものであり、賞与の完全な代替にはなりません。

従業員にとって最も重要なのは、やはり金銭的な報酬であることは認識しておく必要があります。

代替制度を導入する際は、従業員のニーズを把握し、実際に価値を感じてもらえる内容を選ぶことが大切です。

また、「今回は賞与を削減したが、これらの制度を充実させることで待遇改善を図る」という明確なメッセージを伝えましょう。

4.赤字で賞与を削減・見送る場合の注意点

4.赤字で賞与を削減・見送る場合の注意点

就業規則の変更手続きと従業員の同意

賞与の削減や不支給を継続的に行う場合、就業規則の変更が必要になることがあります。

就業規則の変更は労働基準法に定められた手続きに従う必要があります。

まず、変更案を作成し、従業員の過半数を代表する者または労働組合の意見を聴取します。

従業員に不利益な変更の場合、その合理性が認められなければ無効となる可能性があります。

不利益変更の合理性は、以下のような要素から総合的に判断されます。

  • 変更の必要性(経営状況の悪化の程度)
  • 変更内容の相当性(削減幅が適切か)
  • 代償措置の有無(他の待遇改善があるか)
  • 労働組合等との協議状況
  • 同種の企業での一般的な状況

一方的な変更ではなく、従業員との十分な協議を経て、できる限り同意を得ることが重要です。

変更した就業規則は労働基準監督署への届出も必要です。

法的な手続きを適切に行うことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

不支給・減額の説明責任と透明性の確保

賞与の削減や不支給を行う際は、説明責任を果たすことが企業の義務です。

経営状況や財務データを可能な限り開示し、判断の根拠を明確に示します。

「経営が厳しいから」という漠然とした説明では、従業員の納得は得られません。

具体的な数字や事実に基づいた説明が、信頼性を高めます。

例えば、売上高の推移、営業損益、キャッシュフローの状況などを図表で示すと理解しやすくなります。

また、削減額の計算方法や配分の基準も透明にすることが大切です。

なぜこの金額になったのか、なぜこの配分なのかを説明できる根拠を用意しましょう。

質問や疑問には丁寧に答え、納得のいくまで対話を続ける姿勢が重要です。

透明性の高い説明は、従業員の理解と協力を得るための基盤となります。

隠し事や曖昧な説明は不信感を生み、組織の士気を大きく低下させる原因となります。

厳しい状況だからこそ、誠実で透明性の高いコミュニケーションを心がけましょう。

労働組合や従業員代表との協議プロセス

労働組合がある企業では、賞与の削減や不支給について事前に協議することが不可欠です。

労働協約で賞与について定めがある場合は、その変更には労働組合の同意が必要です。

協議では、経営状況の詳細な説明、削減の必要性、削減額の算定根拠などを提示します。

労働組合からの質問や要望には真摯に対応し、可能な限り合意形成を目指します。

労働組合がない企業でも、従業員の過半数を代表する者との協議が求められます。

従業員代表の選出は、民主的な手続きで行われる必要があります。

協議の過程では、労使双方が歩み寄り、現実的な解決策を模索することが重要です。

例えば、削減幅を調整したり、代替措置を提案したりすることで、合意に至る可能性が高まります。

協議の結果は書面で記録し、合意事項については協定書などの形で残すことが望ましいです。

適切な協議プロセスを経ることで、法的なリスクを軽減し、労使関係の悪化も防ぐことができます。

トラブルや訴訟を避けるための実務上の対策

賞与の削減や不支給をめぐるトラブルを避けるため、以下の対策を講じましょう。

  • 事前の十分な説明と協議: 一方的な通告ではなく、時間をかけて理解を得る
  • 書面による通知: 削減の理由、金額、今後の方針を文書で明確に示す
  • 平等な取扱い: 特定の従業員だけを不当に差別しない
  • 過去の事例との整合性: 過去の赤字時の対応と矛盾しないようにする
  • 専門家への相談: 労働法の専門家や社会保険労務士に事前確認する

特に注意すべきは、賞与の削減が「不利益変更」に該当する場合です。

合理的な理由なく、従業員の同意なく不利益変更を行うと、労働契約法違反となる可能性があります。

訴訟に発展した場合、企業側が「変更の合理性」を立証する責任を負います。

経営状況の悪化を示す客観的な証拠、他の選択肢を検討した経緯、従業員との協議の記録などを整理しておくことが重要です。

また、賞与削減を実施した後も、従業員の不満や不安に耳を傾け、フォローアップを続けることが大切です。

「削減は一時的であり、業績が回復すれば元に戻す」という明確な方針を示すことで、将来への希望を持たせることができます。

まとめ

賞与は赤字でも支給すべきかについて、重要なポイントをまとめます。

  • 賞与の支給義務は就業規則や雇用契約の内容によって異なり、一律ではない
  • 業績連動型賞与の場合は赤字時の削減が認められやすいが、固定賞与の削減は慎重な判断が必要
  • 赤字時の支給判断は財務状況だけでなく、従業員のモチベーションや離職リスクも考慮する
  • 業界水準や競合の動向を参考にしつつ、自社の状況に応じた独自の判断を行う
  • 削減する場合は適切な減額幅の設定と、部門・職種別の配分に配慮する
  • 従業員への丁寧な説明と透明性の確保が、理解と納得を得るための鍵となる
  • 代替的な報酬制度の導入も検討し、金銭以外の価値提供も考える
  • 就業規則の変更には法定の手続きが必要で、従業員の同意を得る努力が重要
  • 労働組合や従業員代表との誠実な協議プロセスを経ることで、トラブルを防ぐ
  • 専門家への相談や書面による記録など、法的リスクを軽減する対策を講じる

賞与は赤字時の経営において難しい判断を迫られる課題ですが、従業員との信頼関係を保ちながら、企業の持続可能性を確保することが最も重要です。

誠実なコミュニケーションと適切な手続きを通じて、労使双方が納得できる解決策を見出してください。

厳しい状況だからこそ、経営者のリーダーシップと従業員との協力が、企業の未来を切り開く力となります。

関連サイト
厚生労働省(労働基準法や就業規則に関する情報): https://www.mhlw.go.jp/

投稿者 torise

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