あなたは「賞与の支給方法がよくわからない」「トラブルを避けて適切に賞与を支給したい」と思ったことはありませんか?
結論、賞与贈呈は法律で義務付けられていませんが、支給する場合は就業規則への明記や適切な手続きが必要です。
この記事を読むことで賞与贈呈の正しい方法や注意点、トラブル防止策がわかるようになりますよ。ぜひ最後まで読んでください。
1.賞与贈呈とは何か

賞与贈呈について、基本的な知識を理解することが重要です。
ここでは賞与の定義や法律上の位置づけを詳しく解説します。
賞与(ボーナス)の基本的な意味と定義
賞与とは、毎月の給与とは別に支給される特別な報酬のことです。
「ボーナス」「夏季手当」「年末手当」「期末手当」など、さまざまな名称で呼ばれることがあります。
一般的には年1~2回、夏季(6月~7月)と冬季(12月)に支給されるのが主流となっています。
賞与は従業員の日頃の貢献に対する評価であり、今後のモチベーション向上を目的として支給されます。
企業の業績や従業員個人の評価に応じて支給額が変動するのが特徴で、生活の補填や労働への奨励といった複数の性格を持ち合わせています。
賞与と給与の違いを理解する
賞与と給与の最も大きな違いは「支払義務の有無」にあります。
給与は労働基準法に基づき企業が従業員に対して支払う義務がありますが、賞与には法的な支払義務がありません。
そのため、賞与を支給しない企業があっても違法とはなりません。
また、計算方法も異なり、給与は毎月固定額または労働時間に応じて計算されますが、賞与は基本給や業績に連動して算出されることが多いです。
支給の頻度についても、給与は毎月支給されるのに対し、賞与は年1~3回程度と支給回数が少ないという違いがあります。
賞与支給は企業の義務ではない理由
賞与の支給は労働基準法で義務付けられていないため、企業の裁量に委ねられています。
これは賞与が労働の対価としての給与とは異なり、企業の業績や従業員の貢献度に応じて支給される特別な報酬であるためです。
したがって、企業が「賞与なし」としていても合法であり、業績悪化を理由に賞与を減額したり不支給にしたりすることも可能です。
ただし、就業規則や雇用契約書に「毎年○月に基本給の○ヶ月分の賞与を支給する」など明確に規定している場合は、企業に支払義務が発生します。
一度定めた支給ルールを遵守しないと労働トラブルに発展する可能性があるため、慎重な制度設計が必要です。
賞与の法律上の位置づけと要件
健康保険法および厚生年金保険法では、賞与を「定期的に支給されるものではなく、かつ支給額が確定していない報酬」と定義しています。
具体的には、年3回以下の支給で金額が定まっていない労働の対価が賞与とされます。
年4回以上支給すると社会保険法上の標準報酬月額の対象となり、賞与ではなく毎月の固定給と同じ扱いになるので注意が必要です。
また、国税庁の定義では「定期の給与とは別に支払われる給与等」とされており、純益を基準として支給されるものや、あらかじめ支給額・支給基準の定めのないものが該当します。
これらの法律上の要件を満たすことで、税務処理や社会保険の手続きにおいて賞与として適切に扱うことができます。
2.賞与贈呈の種類と決め方

賞与にはいくつかの種類があり、企業の状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
ここでは主な賞与の種類と、それぞれの決定方法について解説します。
基本給連動型賞与の仕組みと計算方法
基本給連動型賞与は、従業員の基本給に支給月数を掛けて算出する最も一般的な方式です。
計算式は「基本給×支給月数=賞与支給額」となり、非常にシンプルでわかりやすいのが特徴です。
例えば、基本給30万円の従業員に対して「基本給の2ヶ月分」とする場合、賞与額は60万円となります。
注意点として、基本給には各種手当や残業代は含まれず、純粋な基本給のみを計算の基礎とします。
計算が明確で従業員にも理解しやすい反面、個人の貢献度が反映されにくく、年功序列的になりやすいというデメリットもあります。
従業員ごとの業績や勤怠状況を反映させるため、支給率を設定して調整する企業も増えています。
業績連動型賞与のメリットとデメリット
業績連動型賞与は、企業全体の業績や個人の評価に応じて賞与額が変動する仕組みです。
計算式は「基準額×評価係数=支給額」となり、評価係数が高いほど受け取れる賞与額も増加します。
メリットとしては、企業の業績が好調な時に従業員に還元でき、個人の頑張りが報酬に直結するため従業員のモチベーション向上につながります。
また、企業側も業績に応じて柔軟に総支給額を調整できるため、先の見えない時代に適した方式といえます。
デメリットとしては、業績が悪化した際に賞与が減額または不支給になると、従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。
さらに評価基準が不明確だと不公平感を生み、労働トラブルの原因になりかねません。
導入する際は、事前に明確な評価基準を設けて従業員に周知することが不可欠です。
決算賞与の特徴と支給タイミング
決算賞与は、企業の事業年度ごとの業績に応じて支給される賞与で、決算期に支給されます。
該当事業年度の損金として算入するためには、事業年度の終了から1ヶ月以内に支給する必要があります。
例えば3月決算の企業では4月末まで、9月決算の企業では10月末までに支給するのが一般的です。
決算賞与の大きなメリットは、法人税の節税効果があることです。
好業績だった年度に従業員へ利益を分配することで、税負担を軽減しながら従業員のモチベーションも高められます。
ただし、支給のタイミングや税務上の要件を満たさないと損金算入できなくなるため、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
個人評価を反映した賞与の決定方法
個人評価を反映した賞与は、「基本給×支給月数」や「役職別の支給額」に、個人の成績を掛け合わせて決定する方法です。
従業員の目標達成度、業務遂行能力、勤務態度、出勤状況などを総合的に評価し、支給率を決めます。
業績評価の基準としては、売上目標の達成率、プロジェクトの成果、顧客満足度、チームへの貢献度などが一般的です。
この方式の最大のメリットは、結果を出した人を適切に評価して賞与に反映させるため、従業員が納得感を得られやすいことです。
個人の頑張りが賞与に直結するため、高い評価を得た従業員は次の目標達成に向けてさらに真剣に業務に取り組むようになります。
ただし、評価基準を明確に設定し、公平性と透明性を確保することが絶対条件です。
評価が不透明だと従業員の不満につながり、かえってモチベーションを下げる結果になりかねません。
3.賞与贈呈の手続きと流れ

賞与を支給する際には、いくつかの重要な手続きがあります。
ここでは賞与支給に必要な一連の流れを詳しく解説します。
賞与支給前に確認すべき就業規則のポイント
賞与を支給する場合は、必ず就業規則に賞与に関する規定を記載しなければなりません。
就業規則には、支給目的・支給要件・支給対象者・支給回数・支給金額・算定方法などを具体的に定める必要があります。
特に重要なのは、業績などによっては賞与を支給しない可能性もある旨を明記しておくことです。
例えば「会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給時期を延期、または支給しないことがある」といった文言を入れます。
また、支給対象者についても「正社員のみか、非正規社員も含むか」「いつの時点で在籍していた者を対象にするか」を明確にしましょう。
「賞与は支給日当日に在籍している者に支給する」という支給日在籍要件を設けることも一般的です。
厚生労働省の「モデル就業規則」も参考にしながら、自社の実態に合わせた規定を作成することが大切です。
賞与明細書の作成と発行方法
賞与を支給する際は、従業員に対して必ず賞与明細書を発行しなければなりません。
賞与明細書には、支給額・控除額(社会保険料、雇用保険料、所得税など)・振込支給額・支給日などを明記します。
給与明細書の発行は企業の義務であり、賞与に関しても同様に明細書を発行しておくことが重要です。
控除項目としては、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・所得税が一般的です。
それぞれの計算方法は通常の給与とは異なるため、正確に算出する必要があります。
最近では給与計算ソフトを導入すれば、控除額を自動計算して賞与明細書を作成できるため、業務効率化につながります。
明細書は紙で交付するほか、従業員の同意を得て電子交付することも可能です。
賞与支払届の提出手続きと期限
従業員に賞与を支給したときは、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を管轄の年金事務所等に提出しなければなりません。
この届出は、厚生年金保険料や健康保険料を正しく納めるための重要な書類です。
賞与支払届は、日本年金機構または健康保険組合に登録している賞与の支払い予定月の前月に送られてきます。
被保険者の氏名等が印刷されているので、必要事項を記入して提出します。
書類が手元にない場合は、日本年金機構のウェブサイトからダウンロードすることも可能です。
提出方法は、年金事務所の窓口への持ち込み、郵送、CD等の電子媒体、電子申請(e-Gov)から選べます。
また、賞与を支給しなかった場合にも「賞与不支給報告書」の提出が必要です。
提出を忘れると年金事務所から催告状が送付されることがあり、延滞金が発生する可能性もあるため、必ず期限内に手続きを完了させましょう。
賞与の振込または手渡しによる支給方法
企業は定められた賞与支給日に、従業員に手渡しまたは銀行振込で賞与を支給します。
現在は銀行振込による支給が主流となっており、給与と同じ口座に振り込むのが一般的です。
振込の際は、支給額から社会保険料や所得税を差し引いた手取額を入金します。
支給日は就業規則に定めた日付を厳守する必要があり、故意に支給日を遅らせることは不法行為となる可能性があります。
例えば、退職予定の従業員への支給を回避するために支給日を後ろ倒しにすると、損害賠償請求をされるリスクがあります。
やむを得ず支給日を延期する場合は、会社の状況を従業員にしっかり説明した上で理解を得ることが重要です。
手渡しで支給する場合は、従業員の受領印をもらい、支給の記録を残しておきましょう。
社会保険料と所得税の控除計算
賞与から控除する社会保険料と所得税の計算は、通常の給与とは方法が異なります。
まず社会保険料の計算では、賞与額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」を求めます。
例えば、賞与総支給額が1,234,567円の場合、標準賞与額は1,234,000円となります。
この標準賞与額に健康保険料率・厚生年金保険料率・雇用保険料率をそれぞれ乗じて保険料を算出します。
健康保険料と厚生年金保険料は企業と従業員が折半して負担するため、計算後に2で割ります。
所得税の計算は「(賞与から社会保険料等を差し引いた金額)×所得税率」で求めます。
所得税率は前月の給与から社会保険料を差し引いた金額と扶養親族の人数によって決まります。
国税庁が公表している「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照して税率を確認しましょう。
計算が複雑なため、給与計算ソフトを活用することで正確かつ効率的に処理できます。
4.賞与贈呈で注意すべきトラブル防止策

賞与支給に関するトラブルを未然に防ぐことは、企業にとって非常に重要です。
ここでは賞与に関連する主なトラブルと、その防止策について解説します。
賞与減額や不支給が違法になるケース
就業規則や雇用契約書に賞与の支給を明確に規定している場合、企業には支払義務が発生します。
例えば「毎年6月末日と12月末日に、基本給1ヶ月分の賞与を全従業員に支払う」と明記していれば、その通りに支給しなければなりません。
一方で「会社の業績に応じて支給」「原則として支給」などの文言であれば、業績不振を理由に減額や不支給にできる可能性があります。
ただし、過去に一定額を継続して支給してきた実績がある場合、従業員に「支給される」という期待が生まれています。
このような状況で突然減額や不支給にすると、労働契約の不利益変更とみなされ、違法と判断されるリスクがあります。
賞与を減額する必要がある場合は、事前に従業員に説明し、理解を得ることが不可欠です。
また、就業規則を変更する際は労働者代表の意見を聴取し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
退職予定者への賞与支給の考え方
一般的に、賞与支給日に在籍していることが支給の条件とされる場合が多いです。
この「支給日在籍要件」は裁判でも有効と認められており(大和銀行事件:最高裁、昭和57年10月7日判決)、就業規則に明記しておくことが重要です。
したがって、退職予定であっても支給日時点で在籍する従業員には、規定通り全額賞与を支払わなければなりません。
一方、支給日前に退職した従業員には、就業規則に支給日在籍要件が明記されていれば支給する義務はありません。
ただし、定年退職のように退職日が事前に決まっているケースでは、賞与支給日との関係でトラブルになることがあります。
例えば、11月20日が誕生日で月末が退職日、賞与支給日が12月10日という場合、原則として支給義務はありませんが、個別の事情を考慮した対応が求められることもあります。
また「直近の半年間に在籍し、一定の勤務日数を満たすこと」などの勤務期間実績を要件としている企業もあります。
転職や中途退職時の賞与支給条件が不明確だとトラブルになりやすいため、あらかじめ明確な条件を設定しておきましょう。
同一労働同一賃金と賞与の関係性
「正社員には賞与を支給し、非正規社員には賞与を支給しない」という規定は、同一労働同一賃金に違反する可能性があります。
2020年4月から施行された働き方改革関連法により、正規・非正規という雇用形態の違いだけを理由とした不合理な待遇差が禁止されています。
同じ業務内容・責任の程度・勤務時間であれば、雇用形態に関わらず同等の賞与を支給することが求められます。
ただし、合理的な理由があれば待遇差を設けることは可能です。
例えば、正社員には将来の幹部候補としての期待があり、より高度な業務や責任が課されているという実態があれば、待遇差を説明できます。
重要なのは、待遇差の理由を明確にし、従業員に説明できる状態にしておくことです。
非正規社員から待遇差について説明を求められた際に、合理的な説明ができなければ違法と判断されるリスクがあります。
賞与制度を設計する際は、同一労働同一賃金の観点から問題がないか、社労士などの専門家に相談することをおすすめします。
評価基準を明確にして従業員の納得感を高める方法
従業員の納得感を高めるためには、公平性のある評価基準と方法に基づいた賞与制度が必要です。
評価基準が不明確だと、従業員は「なぜこの金額なのか」「評価が不公平ではないか」という不満を抱きやすくなります。
まず、評価項目を明確に定めることが重要です。
具体的には、業務目標の達成度・業務遂行能力・勤務態度・出勤状況・チームへの貢献度などを評価項目として設定します。
各評価項目の配点や評価方法を就業規則や社内規程に明記し、事前に従業員に周知しておきましょう。
評価は上司だけでなく、複数の評価者による多面的な評価を取り入れることで、客観性と公平性を高めることができます。
また、評価結果を従業員にフィードバックする機会を設け、どの点が評価されたのか、どこを改善すべきかを伝えることが大切です。
透明性のある評価システムは、従業員のモチベーション向上につながり、結果的に企業の業績向上にも寄与します。
評価システムの構築や運用に悩む場合は、人事評価システムの導入や、専門家のコンサルティングを受けることも有効です。
まとめ
この記事で解説した賞与贈呈に関する重要なポイントをまとめます。
- 賞与は給与とは異なり法的な支払義務はないが、就業規則に明記すると支払義務が発生する
- 基本給連動型、業績連動型、決算賞与など、企業の状況に応じた支給方式を選択できる
- 賞与支給時には明細書の発行と、支給日から5日以内の賞与支払届の提出が必要
- 社会保険料と所得税の計算方法は通常の給与とは異なるため正確な処理が求められる
- 支給日在籍要件を就業規則に明記することでトラブルを防止できる
- 退職予定者への支給条件を明確にしておくことが重要
- 同一労働同一賃金の観点から、正規・非正規間の不合理な待遇差は違法となる可能性がある
- 評価基準を明確にして従業員に周知することで納得感が高まる
- 業績悪化による減額や不支給の可能性を就業規則に明記しておくとリスクを軽減できる
- 専門家に相談しながら自社に合った賞与制度を構築することが成功の鍵
賞与制度は従業員のモチベーションに大きく影響する重要な人事施策です。
適切なルールを設定し、透明性の高い運用を心がけることで、従業員との信頼関係を築きながら企業の成長につなげていきましょう。
関連サイト
厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/
